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2017. 5.12.Up Dated.
賃料動向と情報公開

 REITの仕事をしていると、賃料動向について取材を受けたり質問されることが多いですが、正直言って私は余り関心を持っていません。
その最たる理由は情報の透明性がない為です。賃料には相場賃料と個別賃料がありますが、相場賃料は個別賃料の動向によって導き出されるものですから、前提として個別賃料の情報公開が必要です。
最も進んだ状態にあるのは賃貸マンションで、個別賃料は大量に公開されていますから相場賃料は誰でも容易に把握できるようになっています。公開されているのは募集賃料ですが、成約賃料との差も小さいので、募集賃料≒成約賃料と考えて差し支えありませんから、ネットで検索し、現地の駅前不動産屋の貼り紙をみれば大凡は把握できます。
一方、オフィスビルはどうでしょうか。 以前に比べて募集賃料のデータは増えていますが、オフィスビルにはフリーレント(賃料免除期間)があって、実質的な賃料は当事者以外分からない状態になっています。REITでさえ、フリーレントの内容を公表しないケースが多いですから、一般のオフィスビルでは全く見当が付きません。
仮に6ヶ月間のフリーレント付の3年契約であれば、坪2万円の賃料は実質的には1.65万円/坪ですから、誤差という程度でありません。それにオフィスビルでは賃料総額も大きいため、募集賃料>成約賃料となるケースが多いので、ネットでの検索では大して当てになりません。
即ち、オフィスビル賃料はテナント側が必要とするデータが公開されていない状態ですから、現在の相場賃料とは供給側の一方的情報だと言えます。

このような市場構造にも拘わらず、マスコミはオフィスビル賃料動向のニュースが好きなようですが、それは情報が偏在している事で、自らの取材力を発揮出来ると考えているからだと思います。
(賃貸住宅の賃料情報等は滅多に触れませんが、それは読者の方が詳しいからだとも言えます)
但し、取り上げられている相場賃料も又聞きで、その信憑性の検証もしていませんが、元々不動産なんていい加減と思って許容しているのかも知れません。

この状態は以前から続いていますので、今更オフィスビル賃貸事業者に向かって改善を叫んでも意味がありませんが、REITのような主体は違います。
REITは投資家の為の器ですから、REIT投資家が賃料情報を隠す理由はありませんので、建前では非公開はテナント側からの要求という事になります。
然しながら、賃料情報の公開はテナント側のメリットに繋がりますから、テナントが非公開とする理由が本当にあるのかという問題があります。
資産運用会社の裁量によって非公開としているケースもあるかもしれませんので、不動産の情報公開が遅れている日本の現状を考慮すれば、そろそろ金融庁も調査してはどうかと思います。
資産運用会社とテナント双方のヒアリングをすれば実態が分かりますし、万一スポンサーの意向に従ったという事でもあれば、REITの仕組みから見れば問題です。
REITを健全に発展させるには必要な措置ですから、そろそろ当局も注意喚起をすべきではないかと考えています。


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