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2012. 1.20.Up Dated.
REITの保有資産価値
 
 REITが保有している不動産の価値をどのように見るかはかなり難しい問題です。
制度上では期末毎に不動産鑑定評価が義務付けられていて、期末評価額が公表されていますが、この価格には算定の根拠が示されていません。
例えば、収益還元の基礎となる利回りをどの程度に想定しているのかは分かりません。
利回りの数値だけは分かるようになっていますが、その数値の前提が何かは示されません。
仮に長期国債利回りに一定のスプレッドを乗せて算定しているのであれば、今後10年程度の長期国債利回りをどの程度に考えているのかを開示する必要があります。 現在の10年物長期国債の利回りは1.0%/年前後ですが、恐らくこの水準で今後10年間は推移すると見ているのでしょうが、果たしてこの見方が妥当なのかは疑問です。
一例を挙げると、ジャパンリアルエステイト投資法人が保有している東京丸ノ内の「三菱UFJ信託銀行本店ビル」(築9年)の鑑定評価上のNOI利回りは3.20%/年になっていますが、この根拠は何でしょうか。
1.0%+2.2%なのか、それとも1.5%+1.7%、又は2.0%+1.2%なのか分かりませんが、スプレッドが1.5%以下は考えられませんから、前2つの何れかだと思われます。
過去8年間の長期国債利回りを見ると、最高で2.0%/年(2006年5月)を示していて、期間平均値は1.395%/年ですから、これに若干上乗せしたとも考えられます。
然しながら、現在の欧州国債の状況や日本の財政赤字を見ると、楽観的過ぎるかも知れませんし、ここからの10年が過去の繰り返しと見るのも賛成できません。
尤も、これらのマクロ経済の動きは不動産鑑定士の範疇外だとも言えますが、投資商品の元本に該当する資産価値を報酬を得て査定をしている以上、分からないとは言えません。それに現在のフランス国債利回りが3.133%/年になっていますので、これと同水準というのもしっくりきません。
元々、REITや不動産私募ファンドが保有するような収益用不動産の不動産鑑定を行う以上、その大前提を明確にしなくてはなりません。
勿論、それは大変難しい事ですし、予想が大きく外れれば信用も失いますが、制度によって不動産鑑定業界は過去からかなりの金額の報酬をこれらの鑑定によって得ていますから頬かむりは出来ないとも言えます。また鑑定報酬は投資家負担になっており、投資家に対して判断補完資料としての責任(道義的)を負いますから、何時までも曖昧なままで制度に保護されて報酬を得るのはどうかと思います。

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