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2010.10. 8.Up Dated.
日銀の資産取得

 日銀の景気対策の一環として発表された資産取得にREITが含まれるとの報道を受けて、REITの投資口価格が上昇しています。
日銀がどの程度の規模でREITへの投資を行うのか、又、投資基準は、という点は明らかにされていませんので現段階では不明ですが、景気対策の一環である以上は自ずと選別基準があるはずです。
景気回復のエンジンとして期待されているのは個人消費の拡大ですので、個人消費を刺激する為にETFとREITを購入し、株価とREITの投資口価格の上昇を図るというのが筋書きのようです。
確かに、これら有価証券が上昇すると、個人の購買力が上がることは不動産販売の第一線では常識化しています。マンション販売では株価が上昇局面にあると販売が好調になり、逆に株価が下がるとキャンセルが多くなるという状況を経験しています。
従って、今回の日銀の景気対策はアナウンス効果も含めて一定の成果は上げそうです。

然しながら、REITへの投資となると、インデックス投資のような機械的な投資では効果が極小化してしまいます。
主たる目的が個人消費の刺激であるならば、REITの主要投資主構成を見て選別する必要があります。即ち上場REIT36銘柄の中で、国内個人投資家の保有比率が10%以下になっている銘柄が10銘柄あります。(これらの銘柄は、金融機関と外国法人の保有比率が高い傾向にある)
仮に、これらの銘柄に厚く投資を行うと、投資利益は金融機関と外国法人に流れます。
既に金融機関に対しては量的緩和等でメリットを与えているにも拘わらず、有効な景気対策とはなっていませんから、この上更に投資利益を与えても景気対策としては機能しないと考えられます。
但し、今回の日銀の発表を受けて、個人が投資口を購入するという見方もありますが、個人投資家比率10%以下の銘柄と言うのは、元々個人投資家を重視していない銘柄で、機関投資家頼みの投資家政策を続けていた銘柄です。
こういう銘柄に日銀が投資すれば、一時的には個人投資家の比率が高まるかも知れませんが、結局は機関投資家に回帰してしまいますから、景気対策としては瞬間効果しかなさそうです。

そこで、選別基準を個人投資家保有比率10%以上の26銘柄から一定の基準で抽出する方法が考えられます。
最も望ましいのは、個人投資家の保有比率が高く、且つ、投資口価格が基準価格(計算上の額面価格)又は投資口簿価(1口当の出資総額)に近い銘柄への投資です。
これらの銘柄の投資口価格が上昇すれば増資チャンスが生じますから、今まで停滞していた外部成長を積極化させます。
今日の市場を見れば、外部成長ではポートフォリオ利回りを上昇させるような取得を行いますから、結果として地方都市の物件取得が増えます。
前回のコラムで書いたように、このようなREITの取得は不動産価値の下支え機能がありますから、マクロ経済に対しても効果があります。
勿論、このような銘柄以外にも投資はするでしょうが、景気対策である以上、効果を考えながら軽重を付ける必要があります。
REIT市場では日銀の発表を受けて一部の銘柄の投資口価格が上昇していますが、日本ビルファンド投資法人やジャパンリアルエステイト投資法人は個人投資家比率の低い銘柄の常連ですので、ここに日銀が厚く投資をするとは思えません。
これら2銘柄は時価総額が大きいですから、東証REIT指数への波及効果は高くなりますが、それでは東証REIT指数を上げる為だけの便法になってしまいます。
従って、効果を持続させるには、個人投資家を惹きつける地道な努力を続けていて、もう少し投資口価格が上昇すれば、一挙に反転攻勢に出られる銘柄に厚く投資する事です。
今回日銀がこのような基準で投資を行えば、金融機関重視が常態化していた銘柄の目を覚ませます。
それは、長い目で見れば金融機関にもメリットがありますし、REITの投資主政策が正常化して持続可能なエクイティ政策に転換する契機にもなると思います。

 
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