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2008. 8. 1.Up Dated.
J-REITへの影響因子


現在のJREIT投資口価格の動きを見ていると、大凡以下の要因によって動いていると考えられます。
@ ファイナンスリスク(資金調達リスク)
A オリジネーターの株式市場でのクレジットリスク
まず、「ファイナンスリスク」については、投資口価格が低迷していて増資が出来ない状況にある銘柄は、このリスクによって投資口価格がスパイラル的に下がるという悪循環に入っています。また、有利子負債の中に短期借入金を抱えている銘柄は、リファイナンスリスクもカウントされています。
更には、投資法人債の発行環境も悪化していますので、昨年に比べれば、REITの資金調達環境はより厳しくなっているのが実態ですから、ファイナンスリスクがクローズアップされるのは仕方ないとも言えます。
次に「オリジネーターのクレジットリスク」については、オリジネーターになっている私募ファンドの資産運用会社や中堅デベロッパーの株価が下落している影響をまともに受けています。
個々の銘柄の投資口価格の動きを見ていると、このような投資判断が必ずしも合理的だとは言えませんが、今のような風潮の中ではなかなか止まりませんので、国内投資家を中心としたこのような見方はしばらく続くと予想されます。

このような国内事情に加えて、「米国REITの動向」もJREITに少しずつ影響を与えています。
JREITでは、レジデンス系銘柄の投資口価格が軒並み下がっていますが、これは米国REITの中の、モーゲージREITの下落の影響だとも言えます。
米国REITでは商業用不動産を投資対象としているエクイティREITは、未だ極端な値下がりはありませんが、最近は商業用不動産の動向に関心が集まりつつあります。
米国では、既にスタグフレーションの兆候も現れていますから、国内景気の低迷によって賃料動向にも何れ影響が出るかも知れません。
但し、米国の金融政策にとっては、ここは最後の砦になりますから、金融当局も防戦に必死になりますので、もう少し揉みあい状態が続くと考えられます。
その意味では、早期にレジデンスの価格下落の影響を止めて、資本市場の落ち着きを取り戻せなければ、悪魔のシナリオが顔を持ち上げてしまう可能性もあります。

それでは、仮定の話として、商業用不動産に投資しているエクイティREITの株価も下がった場合、JREITのオフィスビルセクターはどうなるのかを考えると次のように言えます。
日本の賃貸市場は欧米に比べると、保守的であり、借り手優位の慣行を持っているのが大きな特徴です。
従って、一昨年から昨年前半の期間でも、JREIT保有物件の賃料上昇率は穏やかであり、海外投資家からは不満の声も多く聞かれました。
この日本の賃貸市場の特性は、景気上昇局面では物足りませんが、逆に景気低迷時にはショックアブソーバーの機能が働きます。
更に、JREITの大規模オフィスビル銘柄の賃料改定姿勢は、一昨年から昨年前半の期間でも保守的でしたので、実際の賃料が市場賃料に到達している状態ではありませんでした。
このように見ると、欧米と異なる保守的特性を持った日本の賃貸市場は、景気低迷時には強いと考えられます。
これはオフィスビルだけの事ではなく、レジデンスでは更に強化されていますから、米国REITとは違うと言うのが実態です。
元々、不動産市場というのはドメスティックな市場なので、グローバルな一律的な見方は出来ませんが、投資市場がこのような事を充分に理解している訳ではありません。
その意味でも、JREITの資産運用会社は、単に情報を垂れ流しするだけでなく、投資家の考えるリスクを先取りし、的を射た情報発信が求められるのです。

<オフィスビル銘柄への提言>
各銘柄は決算発表時の決算説明資料で、市場動向や分析を掲載していますが、ここしばらく日本の賃貸市場の特性と自らの保有物件の賃料水準が市場賃料とどの程度差があるのを説明して、海外投資家が懸念するリスクを払拭する必要がありそうです。
また、今後のテナントの交替や新規誘致による賃料の変化が配当金へどの程度の影響があるのかをシミュレーションしたり、稼働率の一時的な変動をどの程度予測し、どういう対応を考えているか等のマイナス局面での戦略と対応の説明を積極的に取り入れて欲しい思います。
元々、JREITの多くの銘柄は保守的運用を標榜していたのですから、こういう時期にこそ、保守的運用のメリットを声高に説明しなくては意味がありません。
こういうアピールは日本では後手に回りがちですし、シャイな文化がトーンを落としますが、既にJREITは海外投資家が大きな位置を占めています。
従って、何時までもローカルな文化に縛られているのではなく、主張すべき事、自らの特性等については、積極的に発言していく姿勢が求められます。
 
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