<金融機関>におけるREIT投資スタンス
金融機関にとって、投融資行為はまさに本業ですので、JREITに対してもより詳細な見方が必要になると思いますので、一般事業法人とは異なった角度で解説致します。
JREITへの融資について

JREITは総資本を借入金(デット)と出資口(エクイティ)で調達しますので、まずは融資先として与信判断を行うことになりますが、最近のJREITのデット調達金利が下がってきており、 金融機関にとっては融資利益が縮小しています。
調達金利が低下している原因は、金融機関の競争もありますが、JREITの場合融資リスクが極端に低いという点が挙げられます。

DSCR
これは、賃貸収益とデットの支払利息額等との比率ですが、JREITは軒並み8倍前後が多くなっています。一般企業の率に比べると、3倍以上の数値を示していますので、利息支払能力は格段に高いという点が挙げられます。

LTV
これは、総資産に対する有利子負債比率ですが、JREITの多くは上限を60%に設定していて、しかも実務上では55%以下に抑えています。
LTVは、融資金融機関から見れば融資掛目となりますが、単に掛目が低いだけでなく、JREITの総資産の価格実現性が比較的高いのも特徴です。 一般企業のB/Sに計上されている総資産を見れば、価格実現性に疑問のある資産も多く含まれますが、JREITの場合は大半が保有不動産です。
更に、JREITの保有不動産の価値は、DCF法という収益還元法によって査定されていて、従来の不動産価格算定に比べると価格実現性が高いのです。
DCF法による価格査定の根拠の一つである賃貸収益は、各JREITが公表しており、相互比較も可能ですし物件毎の詳細なデータもあります。
しかも、JREITの資産運用は外部の専門資産運用会社が行っていて、その実力は私募ファンドの資産運用会社に比べると高いのです。 高いレベルの資産管理が行われている不動産価値の実現性はより高くなりますので、LTVの数値以上の安全率があります。

デフォルト確率
たとえデットの元本回収が可能であっても、融資先が倒産すれば融資金融機関にとっては融資の失敗になります。 JREITの場合は、法規制によって、
・ 社員を雇用できない。
・ 不動産の取得と保有以外の業務が行えない。
という特徴があります。
従って、JREITへの融資は保有不動産と運用状況さえウォッチしておけば事足りますし、一般企業に比べると倒産確率も極端に低くなります。 更に、保有資産は資産保管会社によって管理されていますので、資産の散逸の懸念もありません。
以上のように、JREITへの融資はリスクが低くなっていますので、どうしても融資利率は低くなる傾向にありますので、金融機関はJREITへの融資だけでなく、出資口というエクイティへの投資を進めることになります。

JREITへの投資をどう考えるか

最近では、地銀等が積極的にJREITに投資していますが、そのスタンスは融資行為と与信管理という従来の考え方を踏襲する部分もあります。
金融機関は、一般企業のように余剰資金の運用先として行うのではなく、本業として運用を行っていますので、当然より慎重にかつ詳細な見方になります。
デットの項目で述べたように、DSCRの高さやLTV・倒産確率が低い点は、エクイティにも波及していますから、投資としての安全性も高くなると考えられますが、金融機関にとって見逃せないチェックポイントがあります。

配当率の継続性
REIT投資の妙味は配当率の高さにありますが、配当利率が高いだけに配当率の変動幅が気になるところです。  また、現在の配当率は、今後も維持されるのかそれとも賃貸マーケットの変化により低下する可能性があるのかという点も気になります。
これらを予測するには、マクロの賃貸市場動向の読みJREITが保有する不動産の質的な吟味、そして資産運用能力の査定がポイントとなります。
経験的にみると、不動産から生じる収益は、立地、建物の質、そして運用能力との因果関係が大きいので、これらを比較検討して吟味することで将来の予測が可能となります。
金融機関にとっては投資金額も大きくなりますから「現在の配当率は概ね維持されるのではないか」という漠然とした数字と期待感だけで、配当率を見ている訳には行きません。
また、JREITの配当性向は100%なので、収益の変動が即、配当金の変動になりますから まさにJREITの賃貸事業の内容が問題となります。
本サイトでは、JREITの各銘柄を上場時からウォッチしていた経験に基き、データを読みながら予測を行う予定です。

簿価の変動性
金融機関にとって短期の資金需要を賄う方法は他にありますから、JREIT投資では簿価の変動性平均取得コストの水準が問題となります。
東証での日々の値動きが何を根拠にしているのかは定かではありませんが、フェアバリューがどの水準かは知りたいところだと思います。  
現状では、JREITを有価証券としての価値算定をしている傾向が強いのですが、JREIT本来の特徴としては、有価証券市場動向との関連性が弱いという点がセールスポイントでもあるのです。  
従って、簿価の算定には、まず純資産価値の客観的査定が前提となり、その上に有価証券としてのリスクスプレッドの査定という順が本来の形だと考えています。
現在は、誰でも分かるリスクスプレッドで市場価格が動いていて、純資産価値については株価との乖離幅が大きくなり過ぎています。
この状態は、情報不足と過渡期故の現象だと考えていますので、本サイトでは不動産分析の視点で純資産価値についても考察を加えていく予定です。

投資先情報の確保
これは株式投資でも同様ですが、JREITも投資先の情報や動き等の把握が重要となります。
JREITの投資口の発行体は投資法人ですが、実体は資産運用会社なので、資産運用会社の実態の把握とポリシー・体制等のチェックが必要となります。
金融機関等の大口投資家は、資産運用会社の人と面談する機会はあると思いますが、必要な情報を入手することは難しいと思います。
資産運用会社は不動産運用の専門家集団ですので、応答も専門的になりますので、投資家という立場では本質に肉迫するのは無理があります。また、海外の投資家に比べると、日本の投資家はシャイでもあり、遠慮がちという体質があります。
本サイトでは、上場時から各資産運用会社の投資運用責任者との面談を開始しており、その後も定期的にヒアリングを実施している経験に基き、資産運用会社の現状や投資運用責任者の考え方、体制の実力などについて定期的にレポートする予定ですので、ご活用下さい。

金利動向や経済動向との関係
日銀の利上げによる短期金利の上昇、海外投資資金の動き等、JREIT株価を短期的に変動させる要素が多くなっています。
更には、不動産価格が慢性的停滞傾向から脱却しつつある動き等を考えると、JREITを含めた有価証券の動きの予測が難しいのが現実です。
JREITは不動産市場動向の影響も強いですので、これらの関係する因子を全て網羅して 将来を予測することは至難の技でもあります。
従って、本サイトでは、全ての経済現象から演繹的にJREITの動きを予測するのではなく、経験的にみた不動産の動きと、個別的影響度を予測した上で、経済動向との関連を探っていくつもりです。
投資家にとって重要なことは、経済動向の分析ではなく、投資対象のリスクパフォーマンスの変動ですので、この2点に絞って経済動向との関連を論述する予定にしております。


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